2012/4/26(木) ホスピタリティ産業としての飲食店

2012年4月26日(木)

「ありがとうが生まれるサービス」

トーマス アンド チカライシ㈱ 代表取締役

玉川大学経営学部大学院 客員教授 力石 寛夫氏

【プロフィール】

早稲田大学卒業後、米国ポールスミス大学ホテル・レストラン経営学部へ留学。同大卒業後、米国にてマネジメント・トレーニングを受ける。 帰国後の1972年トーマス アンド チカライシ㈱を設立し、ホテル・外食・レジャー企業に対するコンサルティング活動をスタート。

1988年に教育訓練専門会社ホテル アンド レストラン インスティテュート㈱(現社名:チカライシ アンド カンパニー㈱)を設立し、人材育成に力を注ぐ。 代表著書「ホスピタリティ~サービスの原点~」(発売元:商業界)は、1997年の初版から25刷を重ねるロングセラーとなっている。

また2004年に続編の「続ホスピタリティ~心、気持ちを伝えるコミュニケーション~」(発売元:商業界)を出版し、既に5刷を重ねている。その他2005年に「ホスピタリティ~お客様と感動を共有する~」2007年に「実践!ホスピタリティ~気づく・考える・行動する~」のDVD教材をPHP研究所より発売し大変好評を博している。

近年は地方自治体、銀行、保険会社、自動車業界、流通業界など、ホテル・レストラン以外の幅広い業界からホスピタリティが注目されており、全国各地で数多くの講演活動を行なっている。

「街に必要とされるお店」

ホテルやレストラン、あるいはサービスということにも全く無縁だった私が、ホテル、レストラン、レジャー産業と広い意味のサービス産業に携わるようになって、かれこれ
40年近くの歳月がたちました。

私がこの産業に関心を持つようになったそもそものきっかけは、1964年、大学2年の終わりに、カナダからアメリカにかけて3カ月にもわたる旅行をしたことでした。その中でも特に私が目を見張り、カルチャーショックを受けたのが、アメリカの数々の素晴らしいホテルやレストランだったのです。
一方、当時の日本ではホテル産業という言葉すらなく、ホテルやレストランは客商売、水商売というレベルでした。

アメリカの素晴らしいホテルやレストランに触れた私は、いつか日本にもそうした世界が実現すると確信し、大学を卒業すると同時に、アメリカのホテル・レストラン大学に2年間留学しました。
さらにその後は、大学で学んだ知識を体験で裏付けようと、アメリカ西海岸のホテル・レストラン王、マークトーマスの下で働きました。
帰国後に、アメリカ時代に学んだ、ホスピタリティをベースのした食文化の豊かさ、楽しさ、優しさなどの素晴らしさを日本のサービス産業に普及しようと、教育・訓練を中心とした活動を今日まで続けてまいりました。

「金曜日の20時に出来ないことはやめる」

大学のホテルのレストランで、バスボーイの実習をしていたあるの日のことでした、バスボーイとは、お客様のお水の注ぎ足し、灰皿交換、次のお客さまのためのセッティング、お客さまの召し上がったものを下げるという専門職なのですが、教官からお水の注ぎ足しの基本ができていないと何回も注意されました。

そこで授業が終わった後も一生懸命練習し、翌日は「今日こそ完璧だ」と自信を持って実習に臨みました。ところがまた注意されたのです。
「分からないかい。確かに君の動作、形は完璧で、優秀なバスボーイに違いない。でもそこに“どうぞおいしい水をお召し上がりください”という気持ちを込めて注いでいるかい。全く気持ちがこもっていないだろう。私たちのサービスという仕事は心、気持ちを

込めてやらないと、とても寂しいものになってしまうんだよ」

この一言で、初めて、サービスの何たるかに気が付きました。サービスのおけるホスピタリティの重要性を認識させられたのです。サービス産業とは、人を中心としたビジネスです。そこで働く人々の心のありようや気持ちの持ち方次第ですべてが決まるのです。

「街に必要とされるお店」

知人に連れられてあるレストランを訪れました。入口から一歩足を踏み入れた途端、「ああ、このレストランは!〝生きているな″」と感じました。働いている人たちの表情が実に行き来として自然な笑顔にあふれ、少しもわざとらしさがなく、さわやかだったのです。
なんとも温かい雰囲気で「いらっしゃいませ、こんばんは」と迎えてくれ、席に着くとこれまた親切にメニュー渡してくれました。

初めてのお店でどの料理にしようか迷っていると、すっとウェイターがそばにやって来て「もし、ご注文をお迷いでございましたら、今、このパスタが大変評判を頂いておりますので、よろしかったらお試しください」とアドバイスしてくれました。そこでそのおすすめパスタをオーダーして、一口、二口食べていると、すっとやって来て、「パスタのお味はいかがでございますか」と声をかけてくれました。
「とても、おいしい。どうもありがとう」と答えますと、彼も実にうれしそうな顔をして「どうもありがとうございました。」と言いながら、ついでに汚れた灰皿まで丁寧に取り替えていってくれました。

この日の食事はとても楽しく幸せな気持ちになりました。
それでは、反対に〝死んでいるレストラン″とはどんなものなのでしょうか。

これも、先日訪れたあるレストランでの出来事です。
全てのサービスが機械的、習慣的で、働いている人が皆、シラけた顔をしています。案の定。お料理提供のタイミングが悪く、しかも、二人で訪れたのですが、私がもう食べ終わろうとしているのに連れの人のお料理はちっとも出てきません。

近くに立っているウェイターに声をかけると。テーブルのそばにやって来るわけでもなく。手を後ろに組んだままの横柄な態度で「ああ、すぐきます」と気で鼻をくくったような答えです。なんとも不愉快で、とてもそこでデザートやコーヒーを楽しむ気分になれませんでした。
このように、私たちがお客様に与える影響とは、私たちが考えている以上に大きいのです。

「街に必要とされるお店」

あるハンバーガーショップ店に届いた、お客様のサンクスレターをご紹介します。
(前略)さて、私、先日貴社のある店舗でとても心に残る出来事にあい、思わずペンを執りました。9月30日の10時ごろ、私は国立がんセンターに入院中の15歳になる次男に、貴社のハンバーガーを食べたいといわれ、少し遠いのですが買いに行きました。

店には女性の店員が1人でした。朝のメニューでは取扱いがないのでちゅうちょしていると、彼女は欲しいものを聞き「少々お時間頂ければ、おつくりします。」と言って、すぐに準備を始めました。そのときに初めて。入院中の子供に持っていくことを彼女に話しました。
このような店にはマニュアルの対応とおざなりの笑顔しかないものと思っていた私には彼女の対応がとても驚きでした。注文の品を受け取り店を出ようとする私に。彼女は「お大事に」と声をかけてくれました。年がいもなく、少しジーンとしていました、そして、さらに驚いたのは、病院に帰り袋を開けてみると、中に小さなメッセージカー
ドが入っており「早く元気になってくださいね」と書いてありました。
息子が発病してから1年半余り、つらいことばかりの中で、知人友人以外の方のこんな優しい気持ちに触れたのは初めてです。

 

この工藤さんの行動は、まさにホスピタリティです。ハンバーガーをつくったのは、特に息子さんの病状なども聞かなくても。自分に今できることならば、して差し上げようという気持ちからの行動だったと思います。

そして、息子さんの話を聞いて、自分にできることとしてメッセージカードを添えました。

そのちょっとした心遣いが。つらいことばかりだったというこのお客様の心を温かくしたのです。まさに、ホスピタリティ業に携わる人間としてのだいご味だと思います

「街に必要とされるお店」

これまで長くにわたって〝ホスピタリティ″に関して述べてきました。私もアメリカで〝ホスピタリティ″という言葉に出会ってから約45年がたち、日本で〝ホスピタリティ″の心、気持ちを伝えようと40年にわたって多くの方々にお話をしてまいりました。

サービス=〝ホスピタリティ″です。繰り返しますが、お客さまにサービスをするということは、そこに〝ホスピタリティ″という心、気持ちが不可欠です。心、気持ちがなければ作業でしかありません。このことを決して忘れないでください。
自分の親兄弟、親しい友人と接しているような気持になって下さい。

いらしてくださったお客さまにとって最良の商品を心、気持ちから提供してください。

そして部下を持つリーダー方々は、心、気持ちから指導してください。

人間である以上、良い部分は必ずあります。そこを見つけて、褒めてあげてください。

人から褒められると人はその良いことに気づき、強い動機を持つようになります。

そしてその部分を伸ばすように自分か取り組むでしょう。

そのとき。心。気持ちのあり方を自分で意識するようになります。
ここから、〝ホスピタリティ″の環境が生まれてくるのです。一人の力では難しいことかもしれませんが。一人ひとりが気づき、変わらないと〝ホスピタリティ″の環境が生まれないことも事実なのです。

思いやり、心遣い、親切心を持って、お客さまの立場に立ち、当たり前のことを当たり前にする。そうすれば、自分も、お客さまもそして社会までもが温かく、〝ホスピタリティ″あふれる環境になるでしょう。

 

本日はありがとうございました。