2014/5/29(木) 「ワイン造りに魅せられて ~それでも甲州の理由~」

2014年5月29日(木)

「ワイン造りに魅せられて ~それでも甲州の理由~」

中央葡萄酒株式会社 取締役栽培醸造部長 三澤 彩奈氏

【プロフィール】

1923年創業、中央葡萄酒㈱グレイスワインの四代目社長三澤茂計の長女として生まれ、幼いころからワイン造りに親しむ。
ボルドー大学ワイン醸造学部DUADを卒業し、フランスにて栽培醸造上級技術者資格を取得。
南アフリカのステレンボッシュ大学院にて葡萄の生理学コースを終了。
その後、ニュージーランド、オーストラリア、チリ、アルゼンチンのワイナリーで研鑽を積む。ジャパンワインチャレンジ2010にて最優秀日本人審査員賞を受賞。
現在、実家の中央葡萄酒㈱取締役栽培醸造部長。

「街に必要とされるお店」

国内におけるワイン産地の中で、もっとも有名なのは山梨です。国内には約250のワイナリーがありますが、そのうち75は山梨県にあり、ワイン生産量は全国の約40%を占めています。山梨が県をあげてそのPRに努めているため、ワイン=山梨、山梨=ワインというイメージができあがっていますが、そこには山梨を代表するブドウ品種「甲州」が非常に大きい存在となっています。
甲州ブドウの起源はヨーロッパ。シルクロードを経由して日本に伝来し1200年の歴史を持つ、日本国有の白ワイン醸造用品種です。全国各地に生産地がありますが、95%が山梨で栽培されています。

 

2010年、この甲州にとって画期的な出来事が起こりました。国際ブドウ・ワイン機構「OIV」に、甲州がワイン醸造用ブドウ品種として登録されたのです。甲州が初めて世界に認められ、ラベルに「Koshu」と記載してEUへ輸出できるようになりました。
また昨年、山梨にとっても日本のワイン業界にとっても、大きな出来事がありました。「山梨」が国内で初めてワイン産地として地理的な指定を受けたのです。

 

今までは「Produced in Japan」とは書けても「Yamanashi」という文字を表記することはできなかったのですが、国からワイン産地として地理的指定を受けたことにより「wine of Yamanashi」と表記できるようになりました。「地理的表示なし」はEUの市場において大きなハンディだったのですが、このことにより山梨ブランドに対する信頼が生まれました。また山梨という産地をワインの個性としてアピールできるようになり、山梨県民にとっても非常に大きな財産となりました。

「金曜日の20時に出来ないことはやめる」

甲州が国際的評価を受けた出来事の中で、私の記憶に一番残っているのは、1998年に開催されたインターナショナルワインチャレンジの国産白ワイン部門で、甲州が最優秀賞を獲得したことです。当時甲州の認知率は低く、ワイン用ブドウとしては二流とされていたので、非常に画期的な出来事でした。
これをきっかけに甲州の価値が見直されはじめ、2000年には英国フィナンシャル・タイムズ紙に、マスター・オブ・ワインの資格を持つイギリスのジャンシス・ロビンソン氏が「日本で飲んで一番美味しかったワイン」として甲州を紹介しました。

 

この方は、世界で最も影響力のあるワインジャーナリストです。また2005年、ジャンシス・ロビンソン氏とともにワイン界の二大巨塔であるアメリカのロバート・パーカー氏が、アジア初のパーカーポイントを甲州に付けました。彼自らがアジアのワインでポイントを付けたのは、今でも唯一甲州のみです。

「金曜日の20時に出来ないことはやめる」

私のモットーは「品質こそすべて」。物がいいことが何よりのマーケティングであると考えています。グレイスワインの輸出先は現在9か国で、すべて海外よりいただいたアプローチから取引がスタートしました。この中に日本人のインポーターはおらず、全て現地のインポーターです。

 

海外でどのような活動を行っているかというと、基本的には一人で海外へ行き、ワイン会などを行っています。時間はかかりますが、価格は妥協をせずに、日本ワインの良さ、可能性を伝えています。海外に行くと、最初は日本でワインを作っていることを知らない人がほとんどなので、1年くらいは何度も何度も説明を繰り返さなければなりません。

現在は、ペニンシュラ香港のワインリストに甲州が載っています。またシンガポールのラッフルズホテルのワインリストにも、活動を始めて3年目にしてやっと載ったのですが、この時、私の中での目標が一つ達成されたように感じました。そしてアジア人のソムリエたちに、アジアで誇れる甲州ワインを注げて嬉しいと言っていただけたとき、甲州は日本だけではなくアジアを代表する品種なったのだなと実感し、とても感動したのを覚えています。

「金曜日の20時に出来ないことはやめる」

今後の甲州にとって、「思慮深さ」がひとつのテーマになると思います。これは、美しいセンスや日本らしさを求めるだけではなく、品質を安定させる、出すぎず控えめに、安売りをしないということです。
思慮深さを伝えることで、甲州に合うマーケットを探していければと思います。

 

甲州は今や世界で人気が出てきていますが、「甲州は日本の誇るブランドになることができるか?」ということを自分に言い聞かせますし、また「世界の市場で求められつづけるワインとなり続けられるか」が課題だと思っています。これまで地元で消費されていた甲州の市場が県外へ、世界へと移ってきています。今自分が挑戦するべきことは、5年10年経ってもさらに美味しい甲州を作っていくことです。

日本のワイン造りは今、醸造技術に頼りすぎているところがありますが、なおざりにされているワイン醸造用ブドウの栽培を今一度見直していかなければならないと思います。そして、さらにアジアを代表するワインへ造っていかなければならないと思います。